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■最低賃金闘争で、労働者の連帯の再生を
  最低賃金一五〇〇円を目指して       内田 加奈子
             



 二〇二一年の最低賃金引き上げを巡る攻防が本格化している。六月二二日には、中央最低賃金審議会が開催され、諮問が行われる。中小企業側は、昨年に引き続き、コロナ禍を理由に最低賃金の引き上げに強力に反対している。これに対し、最低賃金の引き上げを求める労働運動側は、署名の提出をはじめとした取り組みを強化している。非正規労働者が四割を占める現在、最低賃金の引き上げは、低賃金労働者・非正規労働者の処遇改善に決定的に重要な位置を占めている。非正規労働者の多くが労働組合に組織化されていない現状の中で、最低賃金引き上げ運動を通じて、未組織労働者との連帯を再生し、労働運動の再構築を進めていこう。

●1章 コロナ禍の下、儲ける企業、深まる労働者の貧困

 労働者の貧困が深まっている。新型コロナウイルスのパンデミックによって、非正規労働者・女性・若者に特に犠牲が集中している。全国で取り組まれている労働相談でも極めて深刻な生活危機に直結した相談が続いている。
 飲食業・観光業などがコロナ危機で大きなダメージを受けている一方で〝K字回復〟などと言われるように、コロナ禍でもぼろ儲けをしている大企業は多い。
 売上げ上方修正のトップはイオンだ。イオンは日本最大の非正規雇用職場でもある。非正規雇用者数が第二位の日本郵政も純利益ランキングで第九位。ソフトバンクは二〇一九年、一億超の赤字決算だったが、二〇年は三億超の黒字に転じて、純益ランキング一〇位だ。その要因は投資と株価上昇にある。
 この一年『コロナ』を口実に労働者の賃金は抑え込まれ続けている。最低賃金も据え置き、または一~三円の引上げにとどまり、二〇二一春闘も低調だった。労働者への搾取が強まり、大企業と金持ちはマネーゲームで巨額の富を社会全体から吸い上げている。内部留保は、八年連続で増えてきている。一八年度の約四五〇兆円が一九年度には約四七五兆円になり、二五兆円も増加している。大企業の内部留保は、長期の休業や、時間短縮、雇い止めや解雇、シフトカットなどで生活の危機に直面している多くの労働者に配分されるべき富ではないか。

●2章 K字回復とコロナ七業種

 新型コロナウィルスの感染拡大で大きなダメージをうけている飲食、宿泊、陸運、小売り、生活関連、娯楽、医療福祉、の七業種を経済アナリストは「コロナ七業種」と名付けた。
 この七業種が経済全体に占める雇用の割合は四割、売上げは二割、利益が一割と言われている。その特徴は、生産性が低く、資金力の脆弱な中小零細企業が多く、賃金水準が低く、人との接触が不可避な業種である。人間の生活と生命に不可欠の社会的に有用な仕事が、生産性が低く価値のない仕事であるとされている歪みが鮮明になっている。コロナ危機で感染の不安にもかかわらず休むことができないこれらの仕事に対して、〝エッセンシャルワーク〟や〝キーワーク〟という賛辞が与えられたが、人間の生活と生命に欠かせない重要な仕事であり、それにふさわしい労働条件を担保すべきだ。
 また、コロナ七業種の中には、長期の休業を余儀なくされている業種もある。休業補償が100%されていない労働者やシフトカットで休業補償すらされていない労働者は生活の危機に直面している。現在のところ失業率は、2・8%、約二〇九万人(二一年四月現在)とされているが、雇用調整助成金や企業への支援策が打ち切られ、緊急融資の返済を迎えたときには、休業者のリストラや、倒産・廃業の大波が予想され、失業率が倍以上に増え、五〇〇万人が失業する可能性も指摘されている。

●3章 広がる労働者内部の格差と分断、深まる孤立

 コロナ危機の影響は労働者のおかれている状況を複雑な諸相で浮かび上がらせた。感染リスクの不安があり、「密」になる電車やバスでの通勤も避けたい中で、在宅でできる仕事と在宅ではできない仕事があり、積極的に感染防止対策を実施する職場としない職場があり、休業できる仕事と休めない仕事があり、仕事が過重になる職場と仕事が減る職場があり、休業しても100%休業補償がある労働者と六割(実質は四割程度)しかない労働者とまったく無い労働者があり、シフト減・失業・倒産・雇止めなどで生活破綻に直面する労働者がいる。同じ職場でも、正社員は休業するが、派遣社員は出勤させられる、という事もあった。
 労働相談の内容も多彩だ。「感染が怖いから休みたいのに休ませてもらえない」、「休むと収入がなくなるから休みたくないのに休まされる」に典型的なように、勤務形態や業種、立場によって、全く逆の相談が寄せられる。「ソーシャルディスタンス」「ステイホーム」「飲み会禁止」「公共施設の休業」「学校の休校」「リモート授業」「部活休止」など人が集う場がどんどんなくなって、職場でも社会全体でも孤立する人が増えた。コロナ危機の中で、労働者の分断はますます進んでいるように思われる。
 バラバラに分断された労働者の連帯を再生するためにどのような闘いが求められているのか。労働運動に身を置く人々は〝いまこそ、労働組合が必要だ!〟と考えているが、現実には労働相談の内容も、数も、労働組合への結集も、かけ離れていると言わざるを得ない。
 労働相談は確かに昨年春ごろには急増した。しかし主な内容は休業補償や給付金など、制度についての問い合わせが大半だった。政府の方針が日ごと週ごとに変化し、〝コロナ特例〟の周知が追いつかない中で、〝情報〟を求める相談が押し寄せた。次には、〝生活できない〟〝住むところがない〟という悲痛な叫びだった。福祉行政の窓口につなぐべき『生活相談』の要素が強かった。その後は、思ったほどには相談件数は増えていない。経営体力の脆弱な中小企業の倒産が増えるのではないかと予測し、倒産解雇問題への対応に身構えたが、これまでのところ、ほとんどない。使用者との交渉に入る事案もほぼ例年並みに近く、労働組合を作るという動きはほとんどないに等しい。
 限られた経験だけで決めつけることはできないが、「コロナだから」というあきらめが蔓延しているのか? 労働組合作りどころでない生活破綻に直面しているのか? このような危機に対して労働組合は役に立たないと考えられているのか? など想像するが、根拠の明確な分析には至っていない。
 他方で、現実は極めてきびしい。それは女性や若者の自死の増加にも表れている。声を上げることもできず、抵抗することもできず、孤立と絶望の中で死に追い詰められているとしたら、そこに労働運動はどのようにして手を伸ばすことができるのだろうか。

4章 均等待遇の闘いの一部に最低賃金引き上げを!

 二〇年一〇月に最高裁判所で三つの判決が立て続けに出された。郵政二〇条裁判、メトロコマース事件、大阪医科薬科大事件である。一言でいえば、手当や福利厚生は均等に、基本給・退職金・賞与など労働条件の根幹は〝それなりに差をつけて〟というものであった。
 正社員と非正社員の大きすぎる格差、正社員の中でも男女の格差、大企業と中小零細企業の労働条件格差、最低賃金制度の中では地方と都市の格差が大きな問題だ。これらの当然視されてきた格差に対して、〝しかたがない〟とあきらめずに〝おかしいではないか!〟と正面から疑問を持って〝同一(価値)労働同一賃金の原則〟を実現しようとする挑戦が続いている。
 パート有期法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する法律)が二〇年四月に施行され、二一年四月からは中小企業にも適用されている。多くの問題点や限界はありつつも、職場で有効に活用して闘える内容も少なくない。中小企業の現場で、パート有期法を利用した均等待遇を求める取り組みが始まっている。

●5章 非正規雇用労働者の労働条件を改善する、最低賃金の大幅引き上げ運動を

 中小企業の職場にはほとんど労働組合がない。全体の組織率は17・1%だが、従業員一〇〇人未満の規模では0・9%でしかない。労働組合という「闘う武器」をもたない圧倒的多数の労働者にとって、最低賃金引き上げは労働条件を改善できる貴重な要素となっている。
 最低賃金に近い賃金水準の労働者は非正規雇用労働者を中心に増えている。一九年度の最低賃金引き上げでは、未満率(最低賃金額を改正する前に、最低賃金額を下回っている労働者割合)が1・6%、影響率(最低賃金額を改正した後に、改正後の最低賃金額を下回ることとなる労働者割合)が16・3%だった。一九年度は全国平均で二七円の引き上げだったが、その結果、中小企業の約半数で賃金の改定が行われた。
 非正規雇用労働者の労働条件を改善する闘いの一部として、最低賃金の大幅引き上げを求める運動に取り組む必要がある。それは、労働組合という「闘いの武器」を手にした労働者の責務である。とりわけ、労働組合が〝大企業の正社員クラブ〟=中小企業の労働者や非正規雇用労働者の役には立たない(場合によっては敵対物)という認識を打ち破り、闘う労働組合の存在をアピールするためにも、必要なことではないか。分断された労働者の連帯の糸をつなぐ一つの方法として、最低賃金闘争を位置付けるべきだと考える。

●6章 最低賃金引き上げで影響を受ける労働者は増えている

 地方最低賃金は例年七月に中央最低賃金審議会で〝目安〟が出され、それに基づいて地方最低賃金審議会が審議し、答申を受けて八月下旬に各都道府県労働局長が決定する。最低賃金は地方最低賃金と特定最低賃金(産業別)があるが、ここでは特定最低賃金については省略する。
 最低賃金の決定にかかわる基準は、(一)労働者の生計費、(二)労働者の賃金、(三)通常の事業の賃金支払能力、これら三つを総合的に勘案して定めるものとされている。そして、「労働者の生計費」を考慮するに当たっては、労働者が健康的で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされている(〇七年法改正)。
 しかし現実には、その年の春闘での中小企業の賃上げ水準と支払い能力論が決定に大きく影響し、またその時々の政権の意向が反映するものとなっている。中央最低賃金審議会で〝目安〟が出され、地方最低賃金審議会では目安に従って各地方事情で、目安通りか目安にプラス一~二円引き上げするところに落ち着く、というのが実際である(金額決定の過程が公開されていない審議会が多いので、詳細なやり取りは不明)。
 一九年の影響率が16・3%だったと述べたが、実際にはもっと多くの労働者が影響を受けている。約四割になっている非正規雇用労働者の大半は何らかの影響を受けている。
 非正規雇用労働者の賃金を経験年数や資格・能力に応じて少しずつ引き上げる賃金体系を取っている職場は少なくない。底が上がれば全体が上がることになる。そして、「周辺的正社員」「限定正社員」などの低賃金正社員の賃金も最低賃金に影響を受ける。「初任給」も最低賃金近くに設定されているので、大幅な引き上げになれば影響を受ける。実際、高卒初任給は東証一部上場企業など大手企業でも一七万一四五四円(二〇年度)、法定労働時間(月一七三時間)で計算すると時給九九一円程度である。この間の最低賃金運動の目標である時給一五〇〇円になれば大きく変わる。

●7章 日本の最低賃金制度のあゆみ

 一九二〇年日本で最初のメーデーのスローガンの一つに「最低賃金制」の要求が掲げられていた。一〇〇年後の今、新自由主義政策の下で弱肉強食の資本主義の姿はむき出しになり、資本主義制度の行き詰まり、低成長時代の中で、資本は労働者への搾取を強めることで利潤を生み出すしかない状況になっている。最低賃金近傍で働く労働者が増えている。最低賃金制度の意味が新しく問い直される時である。
 日本の最低賃金は戦後の一九四七年に制定された労働基準法の二八条に「行政官庁は必要と認める場合においては、一定の事業または職業に従事する労働者について最低賃金を定めることができる」と定められたが、一度も機能しなかった。その後、国際的な〝ソーシャルダンピング〟(国家レベルの安売り輸出=廉売のために労働者に低賃金・長時間労働を強いている)との批判を受けて、一九五九年に最低賃金法が制定され、初めて最低賃金が決定された。しかしその中身は、労働者・労働組合の関与する余地のない業者間協定によるもので、中卒女子初任給を基準とした最低賃金(一五歳で月額四〇〇〇円)であった。
 この最低賃金が高度経済成長の中、急激な賃金上昇によって無実化する中、一九六四年の中央最低賃金審議会は地域別及び業種別(三地域二業種別)に最低賃金の具体的な目安を答申した。地域別の最低賃金と産業別で初任給を低く抑えようという流れが始まり、審議会方式が主流になる。一九六八年に最低賃金法が改定され、業者間協定が廃止され、現在の公労使による審議会方式で最低賃金を決定することになった(地域別最低賃金と産業別最低賃金の二つの制度)。この時から決定基準が、(一)労働者の生計費、(二)労働者の賃金、(三)通常の事業の賃金支払能力の三要素で決められているが、その水準は中卒初任給のままだった。
 このような制度の整備でようやく一九七一年にILO条約(二六号、一三一号)を批准。地方ごとに審議会が設置されていく。一九七五年にすべての都道府県で地域最低賃金審議会での決定が実現するが、地方ごとの決定では整合性に欠けることを問題視して労働運動の側から全国一律最低賃金制度の要求が高まり、国会に法案が提出された。この法案は決定されなかったが、中央最低賃金審議会で「目安」を示すことになった。一九七八年には全国を四ランクに分けての目安が示された。以降、目安方式が定着するが、その結果は、最低賃金をいくらにするか、あるいは、いくらであるべきか、ではなく、いくら引き上げるかが焦点化されることになり、三〇人未満の小零細企業の賃上げ水準の後追いをするだけになっていく。
 非正規雇用労働者が増加する中、低すぎる最低賃金が焦点となり、二〇〇七年に最低賃金法が改定された。その主な特徴は、(一)地方別最低賃金の強化(全労働者への適用と罰則強化)。(二)産業別最低賃金は「特定最低賃金」とし、労使の申し出がある場合の任意決定。労働協約拡張方式は廃止。派遣労働者へも適用。(三)生活保護との整合性、だった。中心的な課題は、(三)の生活保護との整合性である。生活保護との整合性が問題になることでようやく〝最低賃金をいくら引き上げるか〟の論議でなく、「最低賃金はいくらにすべきか」の議論の入り口に立ったと言える。

●8章 低すぎる日本の最低賃金

 最低賃金の全国加重平均は、現在九〇二円だが、時給九〇二円で法定時間(一日八時間週四〇時間)働くと、月平均173・8時間×九〇二円=一五万六七六八円、年収で約一八〇万円であり、ワーキングプアと言われる年収二〇〇万円にも届かない。単身者がぎりぎり今日を生き延びる水準であり、とても〝健康で文化的な最低限度の生活〟には及ばない。非正規雇用労働者の多くは時給制や日給制で働いており、病気になって休んだり、病院に行くにも、収入の減少と医療費の支出を覚悟しなければならない。いざという時に備えた貯蓄ができるゆとりもない。ひとつ躓くとただちに生活破綻に陥るリスクを抱えての生活である。一人親世帯で働き手が一人の場合、とても生活できる水準ではない。現に、生活保護の母子世帯の給付よりも低い収入になっている。
 一般に年収三〇〇万円が「結婚の壁」と言われるが、最低賃金が一五〇〇円になれば年収で約三〇〇万円となり、なんとか「壁」に到達できる。生活保護制度との比較でも、ようやく母子世帯の給付額にたどりつける。
 日本の最低賃金制度は業者間協定から始まり、その水準は中卒初任給を基準としたものだった。これが日本の最低賃金が低すぎる大きな要因となっている。
 国際的にみても日本の最低賃金は低い水準である。アメリカは日本より低い七・二五ドルとなっているが、これは連邦最低賃金であり、州ごとに定められている最低賃金は全国加重平均で一一・八ドル(二〇一九年)になっており、一五ドルを超える都市や州が急増している。日本はいまや先進国中最も低い最低賃金となっている。アメリカで一〇年代から闘い続けられている〝Fight for $15〟運動の大きな成果である。
 ひるがえって日本では、最低賃金は一九八〇年代に入ってから二〇〇七年までのおよそ二五年間、中小企業の賃上げに準ずる水準でしか上がっていない。労働運動が最低賃金引き上げの努力を怠ってきたことが、労働者の低賃金だけでなく、生活保護の水準を押し下げる圧力にもなっている実態がある。
 生活保護制度は長年にわたり、受給当事者が憲法二五条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」の実現を求めて、裁判闘争を含む粘り強い闘いに取り組み、少しずつ改善が進んできた。生活保護費は、二〇〇〇年代に入って以降、デフレ経済と国の財政ひっ迫を理由に据え置きが続き、一三年から大幅な引き下げに転じている。各地で違憲訴訟が闘われているが、司法の判断は厳しい。その背景には、非正規雇用労働者の増加、周辺的正社員の増加によって労働者の賃金が下がっていること、最低賃金近傍で働く労働者の増加がある。働いても生活保護以下の水準の労働者が増えている。それに比例するかのように生活保護バッシングが高まっている。
 最低賃金闘争は、憲法二五条の生存権をどの水準で考えるのか、という問題であり、社会保障・福祉の全般に大きな影響を与えることを考えると、労働運動としてどのような社会を目指すのかの闘いであることを肝に銘じなければならない。

●9章 全国一律一五〇〇円を実現しよう

 最低賃金が低すぎるという問題に加えて、制度のもう一つの論点として、地域格差の問題がある。
 現在の最低賃金は最高の東京では一〇一三円、最低の秋田県や沖縄県では七九二円で二二一円もの差(約78%)がある。全国で生計費調査が取り組まれているが、都市と地方の最低生計費にはこれほど大きな違いはない。都市部で住居費が高い分、地方では交通費が大きな負担となっており、耐久消費財や衣料費・食費はほとんど変わらない。最低賃金近傍の労働者を多数雇用しているコンビニチェーンや郵便局の仕事は全国どこでもほとんど同じで、同一労働同一賃金の原則からしてもこの大きな格差は、もはや差別ともいうべきものだ。現実に、地方の人口流出による過疎化と都市の人口集中の問題は、最低賃金と深く関係している。最低賃金の格差のために、県境では求人が困難になっている。外国人労働者も都市での就労を希望し、地方で人手不足に拍車がかかっている。

●10章 労働者の連帯を構築する最低賃金闘争を

 労働者階級内部の経済的な分断は、一九九五年経団連の「新時代の日本的経営」以降、複雑な様相を深めている。
 終身雇用と年功賃金を基本とした人事・雇用慣行を資本の側が投げ捨てた結果、大リストラと非正規雇用の拡大、成果主義による正社員内部の競争激化、これらが、貧困の拡大と過労病・死、職場の荒廃とハラスメントの横行の原因となっている。
 初任給を企業規模別に比較したデータでは、高校卒では、大企業も中小企業も大きな差はない。月収一六万円台は最低賃金近傍の時間単価となり、最低賃金に規定されていることがわかる。初任給は労働市場で相場が決まる。大企業と中小零細企業の間の大きな賃金格差は、入社後の成果主義賃金、属人的な賃金決定システムのなかで、作られていく。
 最低賃金闘争は、労働市場を規制する闘いでもある。労働者の約四割の非正規雇用労働者の大半の賃金と、初任給を規定するものが最低賃金である。そして、いまや日本の労働市場の重要な一角を占める外国人労働者の多くも最低賃金に大きく影響を受けている。
 最低賃金闘争をこれら市場横断的な多数の労働者の連帯の運動として組織していくことが重要な課題になっている。
 コロナ禍で労働者の分断と孤立の状況はますます深まっている。労働組合のない、99%の中小零細職場の労働者、非正規雇用の労働者、外国人労働者、これらバラバラに分断され、労働組合の交渉や闘いを通じて労働条件の引き上げを実現することができない圧倒的多数の労働者が自分自身の賃金引き上げにアクセスできる方法の一つとして最低賃金闘争を組織していこう。
 「労働組合」という〝闘う武器〟を手にした労働者こそが先頭に立って最低賃金闘争を闘おう。労働組合の組織率が17%台で低迷し、労働争議も一九八九年労戦統一以降、ストライキ参加者数でみても激減している。労働組合が多くの労働者にとって、〝縁のないもの〟になってしまっている現状を変えていかなくてはならない。「組織労働者」にとっても、闘わない労働組合の存在は、組合費を徴収されるだけの存在になっている。
 労働組合・労働運動への信頼を再構築し、バラバラにされた労働者の連帯を紡ぎなおす闘いを最低賃金闘争の中で挑戦する意義がある。最低賃金は、正社員も、非正規雇用労働者も外国人労働者も共に手をつなぎ合える課題だからだ。最低賃金闘争の今日的意味を洗い直し、運動の拡大を実現していこう。 行動し、貧困の現実に大波を起こしていこう!






 


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